野生的な紅茶

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母は食後にコーヒーをいれる。
黙って父は、そのコーヒーを飲み、黙って新聞を読み、二人の間での会話はほとんどない。
結婚30周年、もう熟年夫婦である。
「コーヒー入れましょうか?」
黙って頷く父。よくこんな関係で今までもってきたなと思った。
母が父に投げかけ、ほんの少し、意思表示する。
そんな日常だった。

感謝の言葉もなく、黙って帰宅し、黙って、食事し、黙って風呂にはいり、そして朝を迎える。
コミュニケーションがほとんどない、一方通行の関係。
若い頃は父はもっと、おしゃべりだった。
楽しい人だった。
社会のストレスでいつしか、多くは語らなくなった。
父と母の間では暗黙の了解だらけだった。
父が母に紅茶を入れた。
そういえば、母はよく、一人で紅茶を飲んでいた。
いつしか、コーヒーにかわった。
その日は30年目の結婚記念日だった。
その他
公開:20/05/18 22:30

ポエマータカノ( 横浜 )

愛を言葉で伝える事が使命だと感じている。
42歳のおじさんです。
カラオケ、料理、笑わすこと、読書、哲学、物思いにふけること大好きです。

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