ワキナメクリニックの男

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「脇を舐めたら恋人の浮気を予知できた? ここは皮膚科ですよ。何、名前が? 確かに私は脇嘗啓示といいます。藁にも縋る想い…… なるほど分かりました、診てみましょう」
 皮膚科ワキナメクリニック院長脇嘗啓示は、白衣を脱いで筋骨逞しい白のタンクトップ姿になった。
「右ですか? 左ですか? 寝たほうがよろしいか? どちらでもいい? では右で」(ペロリ)
「どうです? なに! 受付の美奈子に刺される未来が。それはいつ? 一週間以内…… ゴホン。で、では予備的な調査を……」
 脇嘗はそういって、舌の先、中、奥。臭いのみ。抱きしめた場合。互いに全裸の場合のサンプル実験を行った。
「舌の奥ほど遠い未来が見えるようですね。姿勢は関係ないようだ。では、来週には、汗や臭い、フェロモンなどの成分ごとに試してみましょう。では、お大事に」
 翌週、男はクリニックを訪れなかった。長期休業することが分かっていたからだ。
その他
公開:20/05/19 10:03
更新:20/05/19 10:05
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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