君の声が聞こえた

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「もしもし」

1本の間違い電話がはじまりだった。君は間違いを詫び、かけた相手は今はいない、夜が怖いから少しだけ話し相手になってといった。

君の声は、かぼそく頼りなげで、あやしいと思いつつぼくは電話を切ることができなかった。

すきな音楽、朝のパンの焼き具合。庭先の愛想の悪い猫。他愛ない話ばかり。けれど、会話はとぎれず自分も誰かと話したかったのだと気づいた。

いつしか窓の外が明るくなっていた。
ありがとう。話を聞いてくれて。あなたがいてよかった。
切らないで。
思わずぼくはいった。

約束した場所に君はあらわれなかった。
ひしゃげた花が手向けられた交差点でぼくは立ちつくしていた。

ねえ聞こえるかい。
あれから何十年もたち、ぼくは所帯をもち、平凡だけどまずまずの日々を過ごしているよ。
君のおかげだ。
あの夜、ぼくは人生最後の手紙をしたためていたんだ。
今でも君の声を忘れない。
ファンタジー
公開:20/05/18 11:31

kei

再開しました。今までコメントをしてくださった方々、お返事できず失礼しました。
これからもよろしくお願いします。

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