あと一歩だったのに

　僕は高校生の頃に同級生の女の子に一目惚れした。でも、彼女は美人で高嶺の花だった。僕にはとても告白する勇気など持てなかった。彼女の親は公務員だし、きっと安定志向に違いない。だけど、僕には学費を出してくれる親もいない。僕は自らの境遇を呪いながら、高卒で働き始めた。
　いくつかの職を転々として、僕は宝飾品の販売セールスの仕事を始め、かなりの金額を稼いだ。まさに自分の実力で稼いだ金だ。この金は自分の夢のためだけに使いたい。
　僕は高校の同窓会で彼女に告白した。ブランド物の服を来て、高級車でドライブに誘い、高価な宝石もプレゼントした。デートを重ねて両親に紹介してもらえることにもなった。彼女は自分の父を尊敬していた。
「お父さん公務員だったよね」
「うん。国税調査官なの」
　僕は真っ青になった。
「実は僕、仕事で海外に行かないといけないんだ」
「え？」
　彼女は無言で、ただ無言で、僕を見つめていた。