誰かが。/黒い穴1

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ある夜、天井から誰かがのぞいていた。
見知らぬ中年男だ。
男はあわてたように目を泳がせ、ぱくぱく口を動かしている。
穴に顔がひっかかっていて、動けないのか。
間抜けな泥棒だ。つかまえてやる。が、とたんに男の顔がするりと消え、残された黒い穴がみるみる閉じていく。あとには何もない。
そんなことをすっかり忘れたある夜、おれは再び天井にあの黒い穴を見つけた。夢じゃなかったんだ。おれは台に立ち、穴に顔をつっこんだ。
すると見知らぬ誰かの部屋が見えるではないか。
こういう仕組みだったのか。だが見えるのは天井だ。しかもやらゆらと視線が揺れる。ここはどこだ。
なんとか目だけを上に向けると、反対からのぞきこむ見知らぬ親父と間近で目があった。

親父が叫ぶ声は聞こえない。おれの叫ぶ声が聞こえないように。
ついてない。
おれの穴は、どこかの親父の腹にできたらしい。しかも顔がぬけない。
ホラー
公開:20/05/18 09:45
更新:20/05/18 10:14

kei

再開しました。今までコメントをしてくださった方々、お返事できず失礼しました。
これからもよろしくお願いします。

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