陽炎、稲妻、見ずの月

8
8

月齢24。スマホで確かめて、顔は上げない。
今夜も降ってるのかな。音も感触もない雨が、街路樹の枝に跳ねるところを想像して、目線はコンクリの上。目の前で欠けてこぼれてく月、もし見えたって痛いだけだ。
『月が欠けるのは、光が雨になるから』
そんなの配置の問題だろ。理屈で説明すれば屁理屈で返す。ムキになって反論しても、結局いい様に転がされた。
『だったら、満ちてく時は何だ』
『降った雨が、蒸発して光になるから』
腹は立つけど、思い出すと面白かった。無茶苦茶でも無意味でも無敵だった。掴めない世界にも手が届く気がした。
陽炎、稲妻、水の月。姿はあっても手に入らないもの。お前がまさにそうだった事を、俺はきっと、未だに認めたくないんだ。
俯いてたら目に入った水溜り、痩せた月が溺れてる。
掬ってもすり抜ける雫に、月の雨はどれくらい溶けてるんだろう。やっぱり考えてしまって、また痛くて腹が立って早足で帰った。
恋愛
公開:20/05/17 23:59

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容