帰ってきた爺ちゃん ~忘れ物~

2
2

その日、いつものように海に出た爺ちゃんが帰ってこなかった。
1週間捜索するも船も爺ちゃんも見つからない。
「爺さん、黄海に迷い込んだな…」
この町では黄泉の国の事を黄海と呼ぶ。海で行方不明になった人はそこに旅立ったんだと。
旅立ってしまったからには、もう戻って来いと願ってはいけない。そんな事をすれば、町は死者で溢れ返る。
そう教えられたにもかかわらず、僕は爺ちゃんに戻って来て欲しかった。

1カ月後、爺ちゃんが家に帰ってきた。
僕は喜んだが家族は皆怖がっている。爺ちゃんの目が死んだ魚の目になっているなんて言うんだ。
爺ちゃんは「ちょっと忘れ物を取りにきただけじゃ」と言って自分の部屋に入っていく。
婆ちゃんのかんざしを手に取り、父さんには預金通帳を渡して家を出た。
「どこに行くの?」
「黄海じゃ。儂は今、向こうで婆さんと暮らしてるんじゃ」
爺ちゃんは僕の頭を優しく撫でると黄海へと旅立った。
ホラー
公開:20/05/18 19:17

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容