トリイレ

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 思いっ切り歌ってやった。
 誰も聞いちゃいない、分かっている。昼休みも過ぎて、始まる五限。差しっぱなしイヤホン、チャイムなんか聞こえるか。
 流れ出したインスト。黄ばんだションクサイ匂いと湿った昼のおかず。足首まで下げたズボンを蹴飛ばして、下半身を丸出しにした奴が声を張り上げている。綺麗なんかじゃない。それでも鳥の歌声に違いないだろ。
 流し忘れた鳥かご。銀色枠縁が鳥居に見えた。
 狭苦しい汚部屋。それでも鳥は歌っていた。
 クソっ垂れなリリック。ヤニ黄色の壁に書き殴る。人間社会から弾かれた言葉たちだ。
 罵詈雑言の替え歌。誰が止める、誰が文句を言う。ここは僕だけの領域なんだぜ。
 誰にも聞こえないソウルミュージック、流れ出すタイルのフロア。流し損ねて、喉奥に詰まったモンが溢れ出してくるんだ。
 誰かが歌っていただろう?ここでは俺が神様なんだぜ。
 トイレに押し込められた、音楽は神様だ。
青春
公開:20/05/18 16:08

直見逸

なおみ いつる、です。
ツイッターでは「瀬々幾」と名乗っています。
一日一本を目安に書いていきます。普段は長編とか色々書いています。

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