失敗は成功の母

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 その陶芸家の焼く壺は、みんな胴がふっくらとした一抱えはある大きなものばかりで、備前焼のような肌をもち、自然の釉薬と火色が景色を成していた。壺の底には一筋のつるりとした溝が掘られてあり、それらの壺のすべてには「口」がなかった。
 観賞用なのか、との批判めいた質問に、陶芸家は頭を振るだけだった。
 「これは壺ではない!」「無用の芸術」「形而上学的壺」
 工芸、芸術、哲学の各界に論争が起こった。
 そんな最中、購入者達から「声がする」「せせらぎを聞いた」「もがり笛が響いた」や、「大きくなった」「膨らんだ」「歪んできた」といった報告がSNSに上がり始めると、オカルト界と物理学界が論争に加わった。
 YOUTUBEに「あの壺割ってみた」が続々とアップされ、壺はことごとく割られた。
 みんな、ただの壺だった。
 陶芸家は詐欺師とまで呼ばれ、忘れ去られた。
 陶芸家は、今も口のない壺を焼き続けている。
ファンタジー
公開:20/05/17 10:03
更新:20/05/17 10:07

新出既出20( 浜松市 )

新出既出です。
twitterアカウントでログインしておりましたが、2019年末から2020年年初まで、一時的に使えなくなったため、急遽アカウント登録をいたしました。過去作は削除してはおりませんので、トップページの検索窓で「新出既出」と検索していただければ幸いです。新出既出のほうもときおり確認したり、新作を挙げたりします。どちらも何卒よろしくお願いいたします。
自己紹介:「不思議」なことが好きです。

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