にがいだった過去
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私はアルトサックスの中で暮らしているから外の世界には疎いけれど、最近誰も私を吹かないのはどうしてだろう。私は世の中から捨てられてしまったのかな。
毎日そんな心配をしていた。
でも今朝は誰かが私のサックスを磨いてくれた。吹かれることはなかったけれど嬉しかった。
私がここで暮らすようになって10年が経つ。これまで何人かの男に吹かれたけれど、私は今も最初のひとが忘れられない。
顔も名前も知らないし、上手な人ではなかったけれど、とても丁寧に私を磨いてくれて、朝も昼も夜も熱心に息を吹きこんでくれた。私を抱いたまま眠ったこともあったよね。
次に私を吹いた男はかなしい人だった。ろくに練習をせず、大きな鍋でサックスを煮ては、長い串を私に刺した。私は貝の身じゃないから。
夜の静けさが怖いよ。
また逢いたいの。最初のあなた。今朝磨いてくれたのはあなたでしょ。また私を吹いて。私を貝扱いしなかったのはあなただけ。
毎日そんな心配をしていた。
でも今朝は誰かが私のサックスを磨いてくれた。吹かれることはなかったけれど嬉しかった。
私がここで暮らすようになって10年が経つ。これまで何人かの男に吹かれたけれど、私は今も最初のひとが忘れられない。
顔も名前も知らないし、上手な人ではなかったけれど、とても丁寧に私を磨いてくれて、朝も昼も夜も熱心に息を吹きこんでくれた。私を抱いたまま眠ったこともあったよね。
次に私を吹いた男はかなしい人だった。ろくに練習をせず、大きな鍋でサックスを煮ては、長い串を私に刺した。私は貝の身じゃないから。
夜の静けさが怖いよ。
また逢いたいの。最初のあなた。今朝磨いてくれたのはあなたでしょ。また私を吹いて。私を貝扱いしなかったのはあなただけ。
公開:20/05/17 08:06
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