ひとり飲みのつぶやき

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―まあ当面はこれで何とかすっか。
俺は買ってきた酒とつまみを無造作にテーブルの上に投げ出した。味気ないことこの上ないが、今は仕方ない。

毎週金曜の夜に行きつけの店を回るのが、俺のささやかな楽しみだった。
だが昨今の事情とやらで、俺は職を失った。しがない非正規の身だ、真っ先にお払い箱さ。
いや、俺なんかまだマシな方だ。こんな状況じゃ仕事は見つからないけど、まあ今すぐ飢え死にするわけじゃない。

それより俺は馴染みの店が心配だよ。
みんな夜の街の灯りで食ってる奴らだ。その灯りが消えたら、すぐ干上がっちまう。
でもよ、俺も今は何ともしてやれない。
ごめんな。何とか堪えてくれ。何とかして生き延びてくれ。
落ち着いたら必ず行くから。
上客なんてのには程遠い俺だけど、できるだけ通わせてもらうから。

そう心の中で呟くと、俺はビールの缶を開けた。
静かな部屋で飲むビールは、いつもより少しだけ苦かった。
その他
公開:20/05/17 19:31
みんな大変 早く落ち着いてほしいですね

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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