後ろ髪ひかれて

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「どこにいくんでしょう」
「彼女次第ですな」
いつものように仲間と並んで後ろ向きに走る。

彼女に出会ったのは十年前。
一目で恋におち、失恋した今も後ろ髪をひかれている。すごい力で。そしてこの状態。
「彼女やけに急いでますね」
「そうですな、躓きそうだ。前がみえんと困る困る」
『困る』といいながらも楽しそうなのは恋をしているからだろう。
恋ほど素晴らしいものはない。
彼女と出会い、恋に落ち、彼女を慕う仲間に出会い、わが人生は充実している。
後ろ髪をひかれているゆえ彼女の美しい顔を見られないことは残念だが。

林の中で彼女が止まった。
「もう嫌っ」と悲痛な声。誰かが私たちの背後を指し「首つりだ」と叫んだが、後ろ髪をひかれているので振り向くことはできない。
「彼女の美しい顔をもう一度正面からみたいものですな」「後ろ髪ひかれているから無理」いつもの冗句で朗らかに笑いあう。
彼女の亡骸を背にして。
ホラー
公開:20/05/16 18:25

牧原加奈( 大阪府 )

牧原加奈です。
よろしくお願いします。

https://twitter.com/makihara_kana

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