受け継ぎの箱

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 若い頃、巷ではどんなモノでもそのまま残せる「受け継ぎの箱」が流行っていた。私がトオルと交換したのは結婚して1年目の夏だった。
「お互いにもし何かあったら開けよう」
 そのときが来た。おもむろに紐を解くとメモリーが再生される。
『カナコ、これは君と幸せを噛みしめたときのモノだ。愛してる』
 鍵が開いた。入っていたのは、
「ぎょう、ざ?」
 たしか結婚して初めて作ったものだ。ピンときて、一口で頬張る。
 トオル、あのときの餃子にはひとつだけ当たりがあったのよ。全く運の良い人。

 薄れていく意識の中、若い女の肩を抱くトオルを思い出した。婚約中なのにと、悔しくて夜明けまで泣いたことも。
 私はある薬をクッキーに入れ「あなたを解放してくれる」とメモリーをつけた。ああトオル、なぜ箱を開けてしまったの。まあいいわ、向こうで存分に話を聞いてあげる。

 どうしようもなく愛してるの。
 ずうっと一緒よ。
ミステリー・推理
公開:20/05/16 17:01
更新:20/05/16 17:09

はごろもとびこ( 関東 )

のんびり屋の気まぐれショートショート

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