雨上がり

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幼少期のお話を少々。

私、既に年齢は四十を越えておりますが、あの時、まだ四つを数える年頃の事を今も鮮明に覚えております。

私の母はとても美しい人でした。西洋絵画の裸婦を思わす柔らかな輪郭を持ち、瞳は丁度我が家で目を開けたばかりの仔犬の様に澄んでおりました。
そんな母と公園へ手を繋ぎ参った時の事です。幼子ですから、どうしても目に映るものが珍しく、間近で見たい衝動を抑えられません。私は母の絹のような手をするりと抜け、雨あがりの水溜まりへと駆けて行きました。
虹のような色を発し、無脊椎動物を思わすうねりで幾何学的模様を示す油の動きを私は夢中で眺めたのです。
ぐるり渦を巻く紋様は長く見ていると、水溜まりの向こう、反転した世界へと誘われるかの様でした。何度目かの母の呼び声に、立ち去ろうとしたその時です。
油の乱舞の中に薄らと映し出されていたのは、私では無く、見知らぬ誰かの覗き込む顔だったのです。
ホラー
公開:20/05/16 15:07
更新:20/05/16 15:10
怪談

蛇野鮫弌( ビリヤニがたべたい )

蛇野鮫弌 (はみの こういち)

一日一作を目標に。あくまで目標……

道草食いつつ逝きましょか。

Twitter @haminokouichi

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