はるばる先に

田舎で一人暮らしをしている儂の日課は仏壇に手を合わせる事である。
ある朝、いつものように仏壇へと向かうと糸のついた紙コップが置かれていた。
何だこれは？紙コップを手に取り、糸を引っ張ってみる。
『おはようございます、あなた。今朝の具合はどうですか？』
驚いた。紙コップから、数年前に亡くなった妻の声がした。何かの悪戯か？
『いいえ、悪戯ではありませんよ。これはあの世に繋がる糸電話です』
あの世に繋がる糸電話？ますます信じられん。何か仕掛けがあるはずだ。
儂は仏壇の奥から裏に至るまで調べ尽くした。が、糸の出所は見当たらず、どこに繋がっているのかもわからない。これはもしかすると本物か？
『あなたが心配で、特別に閻魔様に拵えて貰いました。これでもう、寂しくはありませんよ』
妻の言葉に涙が出た。

その日から儂ははるばる先にいる妻と糸電話でよく話すようになった。
時々、妻の父親が出る事が難点である。