くじらぼたん

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いつの頃からかは知らない。
家の庭に、奇妙な牡丹が一株植わっていた。
赤地に白の縦縞が入る錦咲き。開いた姿は紅白幕に似て、花の多い年は慶事も多いとされた。
奇妙と言うのは、花の色が変わるのだ。遠目にも鮮やかな赤が黒に染まる。交互に織りなす白と黒は、まるで葬儀の鯨幕。この牡丹が咲くのは、家族に不幸のある年と決まっており、七年前は祖母が病で、昨年は父が事故で世を去った。
深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け――昔の歌にあったが、牡丹が死を悼んで咲くのかは判らない。死は花の後に来るからだ。近い死の気配を感じて咲くのか、牡丹が死を呼び込むのか。いずれにせよ、咲けば必ず誰かが死んだ。

縁起が悪いと、花に手を掛けるのはご法度だ。
花頭を落とした父は、翌日に列車事故で首を無くした。死は避け難く粛々と訪れ、私達に出来るのは、首を垂れて覚悟を決める事だけ。
今年は鯨が三つ。丁度頭数が揃っている。
ホラー
公開:20/05/14 23:59
更新:20/05/15 00:10

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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