円満夫婦の秘訣

14
18

「あー、もうやだ」
台所から妻のイラついた声が聞こえた。
「持ってけ」
差し出された丸皿に乗っていたのは、薄焼き卵に包まれた冷やし中華だった。
「天津風にしてみた」
なんて斬新なアイディアだ。薄く焼いた卵を、刻んで錦糸卵にするのではなく上にかぶせて麺を見えなくすることで、宝箱を開ける瞬間のようなドキドキを演出するとは。
皿の縁には、途中まで切られたキュウリと、細切り用のピーラーがトッピングされていた。
私は丸皿の上で、手を切らないように慎重にピーラーをかけた。細切りにされたキュウリがパラパラと落ちて皿を彩った。
なるほど。目の前でキュウリにピーラーをかけることでライブ感を演出したのか。そして最後の一手間を自ら行うことで、この料理が完成する。妻はその感動を私と共有したかったのか。
茹ですぎてのびた麺がお腹に優しい。
一瞬、手抜きに見えた冷やし中華に、私は妻の愛を確かに感じた。
「美味しいよ」
恋愛
公開:20/05/14 18:38
更新:20/05/14 18:44
料理してえらーい。

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容