生きてる事、トマト

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ここの農園のトマトは人に優しい。
作り手の心も優しい。
相手の気持ちを考え、丹精込めて作る。
無農薬で愛がこもってて、これ以上のものはない。
「何してるんだ?」農夫は尋ねた。
少年はトマトを持って逃げ出した。
農夫は見逃した。次の日も、次の日も。
気付かないフリをして、栽培に励んだ。
「これ、はよう食べ。」妹はトマトが好きだ。
農夫に分けて貰ってると嘘をついた。
喜んで食べている妹の顔が嬉しくて、何度も、何度も繰り返した。
二人の母は今日も、仕事帰りでただ、ねている。
昼間に目をいつも、覚ます。
母を思い、妹を思い、彼は家族の為だと、自分の良心に蓋をして罪を犯す。
彼の頭の中では農夫の顔が浮かんでいた。
いつもの時間にまた、農園に行った。
トマトが袋詰されて、入口に置いてあった。
「今日も持っていきな。」
そう、メモに記されていた。 
その他
公開:20/05/14 18:34
更新:20/05/14 18:35

ポエマータカノ( 横浜 )

愛を言葉で伝える事が使命だと感じている。
42歳のおじさんです。
カラオケ、料理、笑わすこと、読書、哲学、物思いにふけること大好きです。

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