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「おい、空に魚が泳いでるぞ!」
「あはは、どうせ鯉のぼりでしたってオチだろ?」
「違う! あの塀の上」
「塀の上? 黒猫がいるだけじゃないか」
「黒猫? いや、そんなのいないだろ。魚がほら、塀の上にふわふわと……」
「何言っているんだ。……ああ、あの黒猫、魚くわえているな。そのことか」
「え」
「真剣な顔してばかばかしい。じゃあな」

 腑に落ちず数歩歩いたその時、近所のおばさんたちの立ち話が聞こえた。
「ちょっと奥さん、あっち、みました?」
「見たわよー、可愛い黒猫ちゃんだったのに。ひどかったわねー」
「車にひかれたのかしら?」
「そうでしょう。内臓が飛び出してぐじゃぐじゃだったわね。でも交通事故って一瞬で死んじゃうっていうじゃない? 案外黒猫ちゃん、自分が死んだことにも気づいてないんじゃない?」
 ぎこちなく塀の上に視線を向ける。
 塀の上ではまだ魚がふわふわと泳いでいた。
ホラー
公開:20/05/15 14:37
更新:20/05/15 18:45

牧原加奈( 大阪府 )

牧原加奈です。
よろしくお願いします。

https://twitter.com/makihara_kana

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