かき氷作家

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かき氷作家の作品はあまり世に知られない。要冷蔵という限られた保管方法、時の流れで原型を留められない性質などが相まって、一部の好事家の間だけで取り引きされているからだ。
粉雪のように粒子の細やかな氷を、固めず成形し造られた生物や建物には繊細な美しさがあった。
高値であるにも関わらず買い手は付く。彼らはその儚さに大枚を叩いた。
かつて界隈に名を馳せた男がいた。彼はかき氷でサグラダ・ファミリアを造った初めての作家で、他にもサモトラケのニケを再現し、その像に両腕と首を造った。

そんな男の最高傑作には曰くがある。皮膚や内蔵、脳まで緻密に造られた“かき氷の少女”は意思を持ち、男は少女に恋をした。幸せな日々を過ごした2人だったが、やがて来る夏に怯えた少女は男を置いて雪山へ消えた。

今も語られる雪女伝説の中に彼女も含まれている事はあまり知られていない。それを追いイエティと呼ばれるようになった男の事も。
ファンタジー
公開:20/05/15 06:02

蛇野鮫弌( ビリヤニがたべたい )

蛇野鮫弌 (はみの こういち)

一日一作を目標に。あくまで目標……

道草食いつつ逝きましょか。

Twitter @haminokouichi

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