手すり

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違和感がある。
確かにいつもの電車なはずなのだが。
そして、私は気付く。
手すりがトライアングルになっていることに。
銀色に冷たく光るそれらは、さもありなん、とぶらさがっている。
あなたの右手がつかんでいるのは、手すりじゃなくてトライアングルよ!!
声に出す勇気はない。
動揺しているのは私1人。
とにかく音を出してみよう。
打棒は、どうしたものか。
考えた末に、鞄から鍵をとりだす。
持ちものの中で、一番硬くて音を鳴らせそうなものだったからだ。

鍵の先端でトライアングルを叩いてみる。涼しげな音が響き渡った。
ほーら、やっぱりトライアングルだったじゃない。

スマホとにらめっこしていた人も寝ていた人も、おもむろに叩き始めた。

目を瞑り、響きを堪能する。

閉じていた目を開けると、目の前にあるのはいつも通りの手すりだ。

あっけにとられた私の耳には、まだ余韻が残っていた。
ファンタジー
公開:20/05/14 09:11

arupara( 東京 西部 )

田丸さんがご出演された『情熱大陸』であらためて空想の力を思い知らされ、読むだけじゃなく書いてみたくなりました。

書いた文章のイメージをイラスト化するのが最近の楽しみです。

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