空耳

「何してるの？」
後ろで呼ばれて、振り向いたらいない。

「何してるの？」
「あ？あぁ、ごめん」
曲がり角、彼女が手をメガホンにしてる。何となく謝って、駆け足で追い付いて落ち着かない。
「今、後ろにいなかった？」
「ずっと前にいた」
「変だな。空耳？」
「気を付けてね。空耳って飛ぶから」
耳をつねって笑う。可愛いけど謎な答え。
「空耳って飛ぶの？」
「流言飛語って言うでしょ？人の噂とかも、半分空耳なんだよ」
きゃらきゃら笑ってスカートが跳ねる。追っ掛けて角を曲がって、またいない。

「どこ行った？」
「もう、何してるの」
真横で声。何してるのはこっちだよ！手を掴もうとしてつんのめり、踏み外す寸前で階段の手すりを掴む。
「何してるの？」
耳元で笑う。きゃらきゃらきゃら
叫んで逃げて道を突っ切って、
クラクション。

「気を付けてねって言ったのに」
破れた鼓膜を這い出た声が、耳の縁から飛んだ。