降伏前夜の城主の話
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昨日までが嘘のように沈としている。
降伏前夜とはどこもこのようなものだろうか。
自室で一人、文台に向かっている。そこには白い紙が置かれている。
家臣への申し訳なさに己のふがいなさ、身内の行く先への懸念も頭蓋を巡るうちに既にすり減り、今は目の前の紙と同じくまっさらである。
鐘が一つ鳴った。もう襲撃はなくとも見張りの兵は習い性で役目を熟す。
こんな状況でも時が進むのが腑に落ちない。このまま紙を睨んで朝を迎えても、
明日のこの城は、敵を当然のように迎え入れるのだろう。
幾らか、まだ騙されている気持ちでいる。そうであるから、今の状況が何か理不尽を強いられているように思えている。
紙を睨む。睨み続ける。朝までにはこの白は、後に残す者の身の保障や、己の名誉を守る文字で埋まる筈なのだ。
背後で時が掠め取られていく。白はまだ埋まる気配もない。
最後の城主を戴く城が、闇の中でただ身を軋ませていた。
降伏前夜とはどこもこのようなものだろうか。
自室で一人、文台に向かっている。そこには白い紙が置かれている。
家臣への申し訳なさに己のふがいなさ、身内の行く先への懸念も頭蓋を巡るうちに既にすり減り、今は目の前の紙と同じくまっさらである。
鐘が一つ鳴った。もう襲撃はなくとも見張りの兵は習い性で役目を熟す。
こんな状況でも時が進むのが腑に落ちない。このまま紙を睨んで朝を迎えても、
明日のこの城は、敵を当然のように迎え入れるのだろう。
幾らか、まだ騙されている気持ちでいる。そうであるから、今の状況が何か理不尽を強いられているように思えている。
紙を睨む。睨み続ける。朝までにはこの白は、後に残す者の身の保障や、己の名誉を守る文字で埋まる筈なのだ。
背後で時が掠め取られていく。白はまだ埋まる気配もない。
最後の城主を戴く城が、闇の中でただ身を軋ませていた。
その他
公開:20/05/13 10:00
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