飛燕

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五月半ばの空では、黒と白が火花を散らしていた。
水音を掻き消す囀り。群れなす鳥影が跳躍し滑空し交錯する。人には捉え切れない速度で風を切り翻り、決して衝突する事はない。あたかも変則チェスの様に、ダンスのクイックステップの様に、緻密で美しい空中戦だ。
黒い羽にくっきり白い腰。繁殖期を迎えたイワツバメ達は、水際と空の往復に忙しい。川砂を掴んで橋下に巣を築き、羽を広げて餌の虫を追う。最高時速で百キロ超を叩き出す彼らの眼に、人の動作はさぞ鈍重で不格好な事だろう。

ふっと影が目前を掠めた。反射的に庇った腕で黒い羽が散り、固いものが跳ねた。
小指の爪程の石?いや貝だ。滑らかな卵型に縦一文字の口。
燕の子安貝。竹取物語の一節が浮かんだのと、再び影が掠めたのは同時だった。手の甲に傷みが走り、力の入った指で貝が砕けた。
けたたましい囀りを引きながら、戦闘機と化した黒と白が、橋上目掛けて一斉に突っ込んできた。
ホラー
公開:20/05/11 23:41
更新:20/05/11 23:58
イワツバメの群れ 『竹取物語』より燕の子安貝 ヒッチコック『鳥』(映画)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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