商店街恋物語

俺の家は魚屋で隣の佳子の家は八百屋。
俺達は子供の頃から市場に行く両親に朝早く起こされ、毎朝店の前の掃除や商品陳列の準備を手伝わされていた。
俺が「早くこんな家出て行きたい」と言えば、佳子は「私も一緒に連れて行って」と言ってくる。
そのやりとりを聞いた両親は『お前ら将来結婚すんのか？』とよく冷やかしてきたものだ。

しかしそれは子供の頃の話だ。大人になった俺は家を継ぎ、魚屋を営んでいる。
佳子はと言えば、家を出て都会でOLをやっている。店は弟の清が継いでいる。
二人して「長男ってのは大変だ」とよく話しているよ。

「佳子が帰って来る？」
清が言うには都会の水が合わず、こっちに帰ってくる事にしたようだ。
こっちに帰って来ても就職先なんかないのにどうするんだ？
心配する俺に久しぶりに会った佳子は大根を手渡してきた。
「ツマにしてください」
佳子の奴、俺ん所に永久就職するつもりか。
採用だよ。