ミルクココアの切実なる願い

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この家の息子、大学生の和樹に丁寧に練り上げられて作ってもらった私は、滑らかでとてもクリーミーで美味しいと評判だ。だけどこのキッチンの主である和樹の母親の作り方といったら。マグカップに私を荒っぽく入れて、お湯をたっぷり入れてひっかきまわす。母親が作った私には溶け残った粉がたくさん浮いている。私としては綺麗に美味しく作ってほしい。作り方講座でもやりたいが、残念ながら私には口もないし、一袋使いきったらこの家族ともさようならだ。
「あれ、和樹。ここにあったミルクココアの粉、知らない?」
「おかしいな。俺ここに置いたよ」
「おかしいわねぇ」
実は私は冷蔵庫と食器棚の間に落ちてしまっている。残りあと一杯分で私の寿命は尽きる。せめて最後は和樹に……。
「俺、買ってくるわ」
和樹、に……。

三年が経った。私は未だ発見される機会を待っている。またきっと和樹が美味しく作ってくれる、その願いを胸に。
その他
公開:20/05/12 12:38
更新:21/10/29 08:40

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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