14
10
境内の縁の下には無数の蟻地獄が円錐形を穿っていました。私がしゃがんでそれらを見ていると、住職が隣にしゃがみました。
「お好きですかな?」
「ええ。とっても不思議な生き物だと思います」
僧侶は柔和に微笑みました。
「ウスバカゲロウ。ご存知でしょうな」
私は頷きました。
「あれは短命です。口もない。ただただ蟻地獄を生むためだけに美しい羽で飛ぶのですよ。それは業(ゴウ)なのです」
「蟻を捕食した報い、でしょうか?」
僧侶は柔和に首を振ります。
「蟻地獄に落ちた時、蟻は、初めて『落ちたくない』と思います。そして『飛びたい』という欲望が生まれます。蟻地獄に落ちなければ、そんな煩悩は生じません。地獄に落ちる無数の蟻達の念が、ウスバカゲロウになるのです。そして、それは飛ぶ」
蟻が落ちていきます。
「蟻地獄を求め、生み出しているのは蟻なのです」
そして僧侶は立ち上がりました。
「仏も同じです」
「お好きですかな?」
「ええ。とっても不思議な生き物だと思います」
僧侶は柔和に微笑みました。
「ウスバカゲロウ。ご存知でしょうな」
私は頷きました。
「あれは短命です。口もない。ただただ蟻地獄を生むためだけに美しい羽で飛ぶのですよ。それは業(ゴウ)なのです」
「蟻を捕食した報い、でしょうか?」
僧侶は柔和に首を振ります。
「蟻地獄に落ちた時、蟻は、初めて『落ちたくない』と思います。そして『飛びたい』という欲望が生まれます。蟻地獄に落ちなければ、そんな煩悩は生じません。地獄に落ちる無数の蟻達の念が、ウスバカゲロウになるのです。そして、それは飛ぶ」
蟻が落ちていきます。
「蟻地獄を求め、生み出しているのは蟻なのです」
そして僧侶は立ち上がりました。
「仏も同じです」
その他
公開:20/05/12 09:15
シリーズ「の男」
宇祖田都子の話
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
ログインするとコメントを投稿できます