しらたまないと

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 二階の部屋でひとりいると、母がやってきた。ここにいたのね、灯りもつけないで。だって、とそっぽをむくわたしに、母は冷えた碗をさしだす。
 碗のなかには黒々としたつぶ餡に、白玉がひとつ。
 わたしがふさぎこむと、母がよくこれを作ってくれた。そして食べおわるころにはすっかり元気になっている。
 そろりとひとさじ餡を口にする。甘みがゆるゆるとしみていく。
 母はうっすら微笑んで夜空を見あげている。月あかりをあびた母の横顔は息をのむほど美しい。階下の酔ったおとなたちのざわめきも薄らぐほど。
 ひとさじ、もうひとさじ。さいごの白玉を喰む。食べ終えたら、今度こそいろんなことを話したい。
 ふりむくと誰もいなかった。
 いってしまった。
 知っていただろうか。わたしはもうあなたの歳をこえている。
 またくるよね。
 わたしがあなたの子どもに還る夜。
 空には満月。しらたまないと。
 
 
 
 
ファンタジー
公開:20/05/10 23:31

kei

再開しました。今までコメントをしてくださった方々、お返事できず失礼しました。
これからもよろしくお願いします。

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