母(かあ)ねーしょん

26
15

老いて食の細くなった母に、菓子や料理は手が進まず、服や雑貨は嵩張ると言うので、毎年母の日は、カーネーションの鉢を贈っていた。
半分布団で過ごす母が、寝たまま見られる様、雨の当たる庭に置き、実家を訪れる折、申し訳に世話をした。冬が明け、雪の下で枯れた鉢を回収し、別れを告げるのが常だった。
「二年越すのは難しいですよ」
行きつけの花屋も笑う。商品として消費する花に、悲しくなる事も多いけれど、ひと時楽しんでもらえたら、それで救われる気持ちもあるからと。

いつになく雪の多い冬。母が入院し、しばらく家を空けた。退院は梅雨も間近で、カーネーションは売っていなかった。病院の荷物だけ積み実家へ向かった。
「いつもありがとうね」
車を降りた母が、庭に目を留めて言った。
去年のカーネーションが、細い茎に一輪、赤い花を付けていた。

もう五年になる。毎年カーネーションは咲き、花の数だけ、母の顔に笑みが増えた。
その他
公開:20/05/10 22:12
母の日

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容