ゆめ

恋が妄執に
愛が退屈に
変わるのならば
夢は何に変わるのか
未練か
憎悪か――
虎になりすべてを忘れたら
楽になれるのか
ああ、わが夢、甲子園よ
櫻は散り
戻らぬときをただ嘆く
悲嘆の海に溺れ
我が身をなくそうとも
ただ一つ
わが魂さえ残ればそれでいい
ああ、わが夢、甲子園……

　疫病の蔓延により夏の選抜野球が中止になったらしい。
　ニュースをみた息子が両手に顔をうずめて何事か呟いている。
　細かく震える肩にそっと手をおき、優しく囁く。
「妄想から帰ってこい。お前は帰宅部だ」