僕と彼女のパスタを巡る話

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「絶妙にして、見事なアルデンテのパスタが食べたい」
突然彼女が言い出した時は驚いたが、その時彼女が読んでいた小説がハルキ・ムラカミだったので、僕は即座に納得した。
彼の作中の料理はどれも美味そうで、僕も読後、アルデンテ至上主義になったものだ。
「私、カルボナーラが食べたいな」
よしきた、僕の得意料理だ。ゆで時間を短くし、卵、塩胡椒、そしてパルメザンチーズと手早く和える。
その時僕の肩越しから彼女が顔をだして、言った。
「牛乳入ってないじゃん」

こうしてカルボナーラに牛乳は有りか無しか論争が小一時間続き、僕が落とし所を考え始めた時だった。

突然彼女が消えた。

AIの充電が切れたのだ。
親世代から続く疫病で、一人一部屋生活が義務付けられ、会話はもっぱらAIだけだ。
僕は明日の話題を「目玉焼き論争」と設定しながら、充電切れの反省の意味も込めて、でろでろに伸びたパスタだった物を食べ始めた。
SF
公開:20/05/11 18:00

七下(ななさがり)

旧「はるぽこ」です。
読んでいただき、ありがとうございます。

400字制限の長さと短さの間で、いつも悶えています。
指摘もコメントも、いただけたらすべてを励みにします、大歓迎です。

【優秀賞】
渋谷コンテスト「夜更けのハイビスカス」

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