きれいな香水

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私は愛を信じていなかった。
愛されない事にずっと慣れてきた。
父と母に見捨てられ施設で過ごしてきた。
愛されたかった。
ある夫婦の養子になった。
愛されるチャンスだと思った。
良い子を演じようと思った。
偽りの家族になった。でも虚しさしかなかった。

義父が亡くなった。交通事故だった。
捨てられると思った。
義母は悲しみにくれていた。
そっと私を抱きしめて泣いていた。
この人も愛してくれる人を失ったのだと思った。痛い程、良く分かっていた。
一人でいる事の辛さは不安で、寂しく、先の希望を見出せず、暗闇の毎日。
「あなたは私のそばにいてね。」義母は言った。
偽りの息子に、こんな事を言う事が理解出来なかった。
この人は信じてくれているのだと思った。
「そのままでいいから。自分を偽らなくていいから。」母は言った。

心の澄んだ人だった。 母がつけていた香水はきれいな心の母の香りがした。
その他
公開:20/05/11 11:39

ポエマータカノ( 横浜 )

愛を言葉で伝える事が使命だと感じている。
42歳のおじさんです。
カラオケ、料理、笑わすこと、読書、哲学、物思いにふけること大好きです。

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