いっぱいでるの。

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「でますよ」
不動産屋はさわやかに言った。物件は最上階の3LDK。ひとり暮らしには贅沢だけど、家賃が驚くほど安くて私は入居を決めた。そのマンションは高台にあって、田園を縫うように流れる大きな川を見渡せた。川向こうには復元途中の城がある。
見晴らしがよくて気持ちがいいからか、ベランダにはよくでる。和服の男がふたり。体育座りで。
私が洗濯物を干していると「白い布は困る」と若いほうの男が言う。間違えたメッセージになるからと深刻な顔だ。彼はきっとまだ10代。私の胸ばかり見ている。室外機の上に座っているほうは割といい男で、対岸を見つめて無口だ。
彼らがでると私はプランターの花が咲いたように嬉しい。
「殿。もはやこれまで」
「ならぬ」
いつもはもの静かなふたりが今朝は声を荒らげている。
私がベランダに出ると川向こうの城は完成していて、周囲は甲冑を着た数万の兵に囲まれていた。
今日は三人で籠城するんだ。
公開:20/05/11 10:28
更新:21/06/07 13:14

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