雨の日の蛍

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曇天の5月。

やがて雨が降り出し、灰色の道に小さな粒が飛び跳ねて黒々と染みになる。

強まる雨足、公園のベンチにずぶ濡れの蛍。春らしい薄紅のコートがまるで散り落ちた桜のような、そんな姿で女がひとり、俯きながら煙草を吸っていた。

頬に張り付く濡れ髪もそのままに、口元へ寄せた紙巻きの先端を煌々と光らせ、溜息の様に煙を吐く。ゆっくり、ゆっくり、何度も繰り返す。

何故あの人は、傘もささずにあんな場所で佇んでいるのだろう。俯く女は小さく震えていた。雨は止みそうにない。

僕はいたたまれず、声をかけようと近づいた。

ひとつの雨粒が、小さく燃え盛る蛍の頭上に落ちる。

じゅっと小さな音を立て、その光は煙となり消えた。

目の前まで来て気づく。ベンチで座る女の横に、口の開いたままのバッグ。その中で光るもの。赤黒い何かの塊。足元の血溜まり。

女は泣いていて、遠くからはサイレンの音が聞こえた。
ホラー
公開:20/05/11 04:49
更新:20/05/13 02:36

蛇野鮫弌( ビリヤニがたべたい )

蛇野鮫弌 (はみの こういち)

一日一作を目標に。あくまで目標……

道草食いつつ逝きましょか。

Twitter @haminokouichi

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