消極的なハンコ

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 ハンコを新調した。
 幼いそいつはいくら朱肉をつけても、うっすらとしかうつらなかった。
「どうしたんだい?」
「……恥ずかしいよう」
 自己主張が苦手な年齢なんだろう。
「大丈夫、自信をもて。自分は山田だと強く主張するんだ」
 俺が励まし続けると、だんだんハッキリとうつるようになってきた。

 数年が過ぎ、俺は部長になった。
「部長、ハンコください」
「ああ」
 ポンッと押すとなぜかハンコはナナメに押されていた。
「すまん、もう一度」
 ポンッ
 今度は反対向いている。
「どうしたんだ?」こっそりハンコに聞くと、
「うるせー、くそじじい」と毒づいた。
「部長のハンコ、反抗期ですね」
 部下が楽しそうに笑っていた。
その他
公開:20/05/09 17:59

牧原加奈( 大阪府 )

牧原加奈です。
よろしくお願いします。

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