心踊るリンゴ

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食べかけのリンゴを見ると思い出す。
10歳離れた兄との思い出を。
ケンカの日々と仲直りの日々。
久しぶりに帰ってきた。
長い入院生活を続けていた。
兄は随分痩せ細っていた。
昔から体が弱かった。
絵を描くのが上手かった。繊細で、丁寧で、優しく。
心臓に穴が空いていた。極度の運動は控えていた。

絵を描く様になった。友人達とも遊べない幼少期は寂しいもので、一人で想像し描き、静かに過ごす日々だった。
兄が描いた食べかけのりんごは彼の心を描いていた。
外で無邪気に走り回りたい。
自分の気持ちと少しかじられたリンゴがかぶっていた。
限界だった。兄の心臓はもう手術するしかなかった。
戻って来たが以前程の元気はなかった。
「リンゴがたべたい。」兄は細々と呟いた。
兄は絵を描いた。食べかけではなく、水水しい赤いリンゴを。その描かれたリンゴは病気をしてなかったらという、兄の希望が込められた絵だった。
その他
公開:20/05/09 20:58

ポエマータカノ( 横浜 )

愛を言葉で伝える事が使命だと感じている。
42歳のおじさんです。
カラオケ、料理、笑わすこと、読書、哲学、物思いにふけること大好きです。

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