8
8

博士の後ろにはいつも痩せっぽっちの助手が立っている。
私が喜怒哀楽の表情を作る度に博士は私を抱き寄せた。

「成功だ」と。

博士の腕の中、私は視線を助手へと向ける。
彼は熱心に研究成果を書き留めている。

博士に褒められることが嬉しかった。

ある日、博士が死んだことを助手から伝えられた。研究も打ち切りとなる。

助手が手を滑らせ、研究書類を床にばらまいてしまった。
彼が熱心に書き留めていた書類だ。
一枚拾い上げるとそこには
『そのままの君でいい』と書かれていた。
この書類にも、また別の書類にも。

『君は君になれ』

私へのメッセージのようなものが。

「悪魔が死んで僕は清々しているんだよ」

助手の目は少し赤い。

「僕は酷い人間だから」

彼は私を真っ直ぐ見つめながら言った。

「人間になんてならなくていいんだ、君は」

人生で一番悲しい日だから。
私は涙を流す機能を使わなかった。
SF
公開:20/05/08 21:24

菫永 園(すみなが えん)

書いたり喋ったりする金髪ギャルのひとです。時空モノガタリ出身。

■Twitter(@teloivxijor)
https://twitter.com/teloivxijor?s=09

■菫永 園の踊らないラジオ
https://radiotalk.jp/program/49880

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容