元佐藤さん

佐藤さんは、とにかく悪い男に目をつけられる性質だった。
何度も何度も結婚し名前がかわっては別れた。そのため、知人から本来の名前である「佐藤」の事を忘れられ、「元佐藤」というあだ名で呼ばれるようになってしまった。

これが佐藤さんには屈辱で、嫌なことだった。ある日、佐藤さんは思い切って改名に踏み切った。いっそのこと、「元佐藤」という名前にしてしまえ、と思ったのだ。面倒な手続きを踏んで佐藤さんは公式に「元佐藤」となった。しかし、そんな元佐藤さんの前にまた魅力的な男性が現れた。今までの男性とはわけが違うほど素敵な男性だった。しかし、一つ気にかかったのはその男性の名前が

「佐藤」

であることだった。やがて二人は結婚したが、名前が佐藤になり、旧姓が「元佐藤」になった。このことで、さらに元佐藤というあだ名が定着してしまったらしい。名前の呪縛から逃れられない一人の女性の話である。