穴がある中央銀行

ごく限られた人しか知らないが、ヒトが一人通れるほどの穴が、S国の中央銀行には昔からある。

どうやら遠い昔の内戦の時代に作られたものらしく、いわゆる避難用の抜け穴であるようだ。しかし、数百年たった今となっては、誰もその穴がどこにつながっているかわからなくなってしまった。

年に一回、銃声や人の叫ぶような声が聞こえてくるというのがもっぱらの噂で、誰も気味悪がって近寄ろうとしない。実は、それらが聞こえてくる日に、毎年莫大な金額が消えていくことは、誰にも言えない僕一人の秘密だ。

はて、僕はいつからこの銀行に勤めていたのだっただろうか。このシワクチャの血のりが付いたお金達は一体誰のものだったか。

今年もまたもうそろそろあの日が、やってくる。