その両手に急須を

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 両手が急須になると同時に、僕の生活は一変した。
 
 突然だった—―一週間前、手首から先が急須に変化してしまったのだ。
 歯磨きに入浴、トイレ、食事……あらゆる場面において、友人の介護が必要な身体になってしまった。扉の開閉などの、ちょっとした動作を行うのも一苦労だ。肘やら手首やらを上手く駆使しなければ、ドアノブを捻ることすら出来ない。
 はぁ……。
 まったく、どうしてこんなことに。
 唯一救いがあるとすれば、この急須で淹れた緑茶は格別に美味しい、ということだろう。僕の介護に来てくれる友人たちの中には、それを目当てにしている者もいる—―なんだか複雑な気分だ。
 まあ、悲観的になっても仕方ない。不便になった両手を見ていると、沸々と怒りが湧いてくるときもあるが、今は、自分に出来ることをやろう。

 ピーーーーッ!!
 
 僕は、ヤカンに変化した頭部を傾けて、急須の中の茶葉にお湯を注いだ。
その他
公開:20/05/09 09:00
更新:20/05/09 10:39

ぢろ吉郎


11/4~11/13の期間、「勝手に秋のお茶漬けデー」と題しまして、お茶漬けの物語を投稿中!(ストーリーに繋がりはありません)
11/4:「御茶ノ漬駅へようこそ」
11/5:「茶漬湖の底へ」
11/6:「神々しきお茶漬け」
11/7:「お茶漬け勇者の箸と匙」
11/8:「茶漬中毒」
11/9:「米どころ、茶漬けの祟り」
11/10:「茶が先か、卵が先か」
11/11:「檻の中。お茶漬けと一人」
11/12:「お茶漬け博物館」
11/13:「明日のお茶漬け」
お茶漬け、完結。充実したお茶漬けデーになりました……!
Twitter、ゆった~りと更新予定です。
https://twitter.com/dirokichiro?s=09

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