よく笑うタンス

思い出は記録に残すしか誰にも語り告げない。
家族全員が楽しんでいる思い出はほんの短い間。
一人、一人のドラマがあり、そして旅立つ。
兄はスポーツマン、いつも父と野球について語り合い、そこに母も乗っかり、ついでに妹も乗っかる。
妹はブラスバンドの練習に明け暮れ、近所の迷惑なんて気にせず、トランペットを皆の前で吹く。
母は料理に夢中、時短だとか節約だとかレシピをブログに上げまくる。
父はモノマネ大好き。芸人がやってるモノマネのモノマネ。そんなに似てないが面白い。

僕はそんな家族の楽しそうな様子が好きだった。静かだ。兄は家庭を持ち、妹は嫁ぎ、父と母は他界。昔の笑いだらけだった風景はない、皆で笑う事の楽しい瞬間はもうない。
皆で分かち合う事もなく、ただ自分に夢中。笑う相手もなく、一人で笑い、一人でツッコみ、人生を修正する。
多くの笑いある風景を見てきたタンスだけが、多くの幸せを記録していた。