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電車を三本、見送った。死のうとしていた。
急行列車がホームに入ってくるというアナウンスが聞こえる。次の電車で……。
ホームの屋根の上に、みすぼらしい鳩が一羽とまって鳴いている。鳩と目があった気がした。とても悲しそうな目だった。
ふと、隣で声がした。
「死にたいの?」
声のした方を向くと小さな男の子が立っていた。
「止めないで、死にたいの」
「止めないよ」
細くて小さな子だった。白いシャツに白い半ズボンをはいている。
「君、死んだの?」
何故だかそう思った。
「そうだよ。お母さんがダメって言ったのに飛んだから、電車にぶつかってしまったの。お母さんがずっと泣いてるからぼく、心配で天国に行けないの。死ぬつもりなら止めないけど、心残りはない?」
「今日は、やめておく」
少年は嬉しそうに笑った。瞬きをすると少年の姿はもうなかった。
屋根の上の鳩の隣に、真っ白な小鳩が身を寄せ、くうくうと鳴いていた。
その他
公開:20/05/08 09:55

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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