『あなた』

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行間を読めていないと指摘されてから、あまり読書をしてこなかったことを恥じた。
以来、私は本を読んだ。一冊を少なくとも3回は読み込む。著者の言わんとしていることを、注意深く息を潜めて、じっくりと読むことに集中した。
そして多くの本を読み漁っていたある日、街の本屋で奇妙な本と出逢った。
タイトルは『あなた』
そそられてページを捲った。
そこには空白しかなかった。正確にいうと、最初の一文字と最後の一文字以外は空白。
…空白を読むのか?
これはつまり、自分で物語を綴れということなのだろうか?
まるで取り憑かれたようにその本を購入した。
早速最初の一文字から始まる物語を紡ごうと空白を凝視すると、そこに無い文字がさらさらと浮かび始めた。
驚く暇もなく読み進めてしまう。今までにない高揚感。
物語の主人公は私だった。
月日も忘れ読み進め、気づけば私は老人だった。
本の最後は私の最期でもあった。
その他
公開:20/05/08 02:58

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

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