喫茶「あさひ」

3
3

「アツシ、すごいやんか」

入口のカウベルをからんと鳴らして喫茶「あさひ」に入ったザキは、おしぼりを持って来たママさんに向かってその息子を褒めた。

3ポイント9本を含む38得点――。
正月明けのバスケットボール天皇杯準決勝でアツシが記録した数字だ。

「あさひ」はアツシの実家で、ザキは高校のチームメイトなのだが、華やかな一部リーグで活躍するアツシに対して、万年二部リーグの野々宮スパークスに在籍するザキは少し引け目を感じている。

「おおきに。そやけど、ザキくんも頑張ってるやんか」

(ああ。二部やけどな。おまけに守備固め専門や)
喉まで出かかった皮肉をコーヒーと一緒に飲み下す。

「でも、最近ちょっと迷ってないか。反応が遅れぎみや」
バスケ経験者のマスターは痛いところを突く。

(俺には親がもう一組おるみたいやな)
実の息子だけでなく、垢の他人の自分の試合まで彼らは観てくれているのだ。
青春
公開:20/05/07 21:00
更新:20/05/07 12:09
バスケットボール バスケット スポーツ アリウープをねらえ!

コイッチ( 兵庫県、大阪府 )

DON'T WORRY, BABY!
そろそろ定年退職後の人生設計が気になり始めた55歳。コーヒーとバスケ観戦、ランニング、芝生の育成が趣味。司馬遼太郎と村上春樹の好きな作品を何度も何度も読み返しています。関西の放送局に勤務。
いまは地方都市の弱小バスケットボール・チームを舞台にしたショート・ショートを「アリウープをねらえ!」という連作にして書いています。半年ほど前にメモってあった小説のプロットがベースです。ショート・ショートとしては邪道なのかも知れませんが、皆さんからのいいね!やフォロー、コメントはたいへん励みになるので、ぜひとも忌憚のないご意見をお聞かせ下さい。
よろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容