遺影家族

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時計は既に零時を指している。私は急いで、自宅の扉を開けた。

『パパ、おかえり』と、息子の声。
『お帰りなさい』次に、愛する妻の声。
「ただいま。遅くなってすまない」
脱いだスーツを、ハンガーに掛けながら二人に言った。
『今日もお疲れ様。お風呂にする? ご飯にする?』
妻の言葉に、少し思案を巡らせる。
「腹は減ってないから、風呂にしようかな」
『わーい、パパと一緒にお風呂だ』
息子の嬉しそうな声に、自然と顔が緩む。
『たっくん、今日は、悪戯しちゃダメよ?』
『えーダメなの? パパに水掛けるの楽しいのに』
『パパは疲れてるから。ね?』
『はぁい、ママ』

二人のやり取りを聴きながら、私は微笑んだ。なんて幸せな毎日なのだろう。私は息子の名前を呼び、お風呂場に向かった。

――部屋には静寂が戻った。人気の無い部屋に、空き缶が散乱している。写真立ての中で、妻と子は、満面の笑みを浮かべていた。
ホラー
公開:20/05/06 14:15

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