天子さん家の天気予報

右耳から、キーンという高い耳鳴りがはじまった。「またか」と思いつつも英単語帳をめくる手を止めて、本にシャープペンシルをはさんで、机の上に置く。

ドアを開けて、フローリングの廊下を歩いてから、リビングに入る。キッチンでキャベツを包丁で千切りにしている母がいた。

あのさ、と呼び止めて、毎日こんな感じで報告する。

「母さん。明日、昼の二時から小雨だわ」

すると、「はい」という返事だけが返ってきた。

すると、父が帰ってきて

「今週は木曜だけ晴天になるぞ～」

と笑顔で母に報告している。おでこの光る位置で晴れの日が分かる、といった内容の自慢話が今日も始まった。

二人の情報を母さんの素早いタイピングにより、『天子さん家の天気予報』を更新した。ものの数秒で「どこよりも正確な天気予報なので、とても助かります」など、次々に絶賛コメントの嵐だ。

俺は部屋に戻り、気象予報士試験の勉強を再開した。