縦、横に動かすハガキ

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田中は病んでいた。肺がんだった。
末期だ。自分はもう駄目だ。そう思っていた。妻も娘も悲しみに包まれ、神に祈る日々だった。告知された。医者から告げられた。「田中さんにハガキが届きました。」宛名は不明。ただ「横に」と書いてあった。
何気なく、横にという言葉につられて、動かしてみた。
娘が妊娠した。孫の顔を見るまで生きようと思った。
一瞬、脳裏をよぎった。縦に動かしたら、どうなるのかと。
横に動かしたら、少しの幸せと希望がもてたのに、その幸せが失われそうで、動かすのをやめた。
妻がハガキを見つけた。何気なく縦に動かした。「駄目だ!!」田中はかすかな声で言った。
田中は眠りについた。夢の中にいた。
天国だと感じていた。妻の声が聞こえた。
孫の鳴き声が聞こえた。「奇跡です。田中さんの身体は回復へとむかっています。」医師は妻に告げた。
田中は思った。あのハガキはどちらへうごかしても幸せだったのだなと。
その他
公開:20/05/06 10:14

ポエマータカノ( 横浜 )

愛を言葉で伝える事が使命だと感じている。
42歳のおじさんです。
カラオケ、料理、笑わすこと、読書、哲学、物思いにふけること大好きです。

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