人間レコード

2
7

亡くなった祖母の形見に、古ぼけた蓄音機をもらった。
箱の横から出ているハンドルを廻すとゼンマイが巻かれ、ターンテーブルが静かに廻転した。
「んー、良い音!」
電子仕掛けのレコードプレーヤーと違って音は小さいが、とても澄んだ音色がした。
しばらくは手持ちのレコードを流していたが、蓄音機と一緒にもらった祖母のレコードも試しに聴いてみた。

すると、ぢぢぢぢぢぢという雑音の中から、掠れた人の声が聞こえてきた。
婆さんやぁ⋯⋯もう許してくれぇ⋯⋯。
「なんだ、これ?」
この声⋯⋯小さい頃に会った祖父の声?
まさかな。
おれは苦笑いしながら、祖母のレコードを紙のジャケットにしまった。
その間もターンテーブルだけが静かに廻転していた。
くるくるくるくると廻る。
目の前が昏くなり、部屋の天井がくるくるくるくると廻る。

カランと音がした。
気が付いたときには、おれは一枚のSPレコードに変わっていた──。
ホラー
公開:20/05/06 09:20
更新:20/07/01 12:09
7月31日蓄音機の日 ショートショートカレンダー

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
https://twitter.com/ShaTapirus
https://www.instagram.com/tapirus_sha/
http://tapirus-sha.com/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容