疑り深い家族

2
3

私は、八百屋の前で立ち止った。
「妻の好きな、バナナが1房50円か」
私は考える。なぜ、この大きいバナナが50円なのだろう。どう考えてもおかしい。
瑞々しい色をした、立派なバナナだ。黒ずんだりもしていない。
「店主。今日は、なぜバナナが安い?」
店主は笑った。
「ちいっと仕入れすぎちまってな」
「そうか」
疑り深い私も、安さの前では弱い。バナナを2房買うことにした。
家につくと、二回扉を叩き、インターフォンを押す。
「誰?」妻の声に「哲郎だ」と答える。
「生年月日は?」と妻。
生年月日を小声で言うと、インターフォンがぶつりと切れた。
チェーンの外す音が聞こえ、ゆっくりと扉が開く。

「お帰りな――あら?」
妻は私の手に視線を落とし、表情を強張らせた。
「私の好物を買ってくるなんて、貴方、浮気でもしたの? それとも……」
そうだった。妻もまた、私のように疑り深い性格をしていたのだった。
その他
公開:20/05/06 12:38
更新:20/05/06 13:12

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容