パノラマ家族

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「閻魔様は特別な鏡に生前の記録を映し、裁きを下します」
閻魔の館前で係の鬼が説明した。
そして私の番。
「最近の地球人は便利な道具の所為か、魂に刻まれた記憶に欠けておる。お前さんはどうか試験じゃ。その魂の来世に少しは影響するぞ」
問う閻魔様に魂を向けた。


生前。今際を迎えた私。
妻、子ども、孫に囲まれていた。
朦朧とする意識。
でも幸せだ。
その束の間、頭が錯乱し、前がグルグルしてきた。
走馬灯のように、私を囲む妻、子ども、孫との記憶が順番に巡る。
まるでその場で見せてくれているかのように蘇った。
いつまでも見ていたいのにパノラマは鈍化し、止まったと思った瞬間から記憶はない。


「鏡はいらんかな。天国行き!」
係の鬼は私を誘導する。
「あっ、お前さん」
背に閻魔様の声。
「ほら、最後は笑顔じゃぞ」
閻魔様は私に鏡を向けてくれた。
でも私は鏡に映る私よりも、家族を見て、天国へ旅立った。
その他
公開:20/05/06 11:44

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